所狭し
【ところ-せ・し】

[形][ク](く)・から/く・かり/し/き・かる/けれ/かれ
《場所》 場所が狭い。手狭だ。→[1]
《雰囲気》不自由で窮屈だ。気づまりだ。→[2]
《表現・態度》堂々としている。重々しい。→[3]
仰々しい。おおげさだ。→[4]
《取り扱い》 やっかいだ。扱いにくい。→[5]
▲もともと場所が狭い意。そこから窮屈だ、扱いにくいの意となり、さらに場所が狭いくらい堂々としている、おおげさだの意となる。
[1]場所が狭い。いっぱいだ。手狭だ。
[例]「御勢いまさりて、かかる御住まひもところせければ、三条殿に渡り給ひぬ」〈源氏・藤裏葉〉
[訳]「(夕霧も中納言になり)ご権勢が大きくなり、このような住まいも手狭なので、三条殿にお移りになった」
[2]不自由で窮屈だ。気づまりだ。
[例]「かかるありさまも慣らひ給はず、ところせき御身にて、珍しうおぼされけり」〈源氏・若紫〉
[訳]「(光源氏は)このような(北山のような)山里へのお出かけも慣れていらっしゃらず、不自由で窮屈なご身分なので、(北山の景色を)珍しくお思いになった」
[3]堂々としている。重々しい。
[例]「出(い)で給ふ気色(けしき)ところせきを、人々端に出でて見たてまつれば」〈源氏・紅葉賀〉
[訳]「(光源氏が朝拝に盛装して)お出かけになるようすが堂々としているので、女房たちは御簾(みす)のそばで拝見したところ」
[4]仰々しい。おおげさだ。
[例]「ただ近き所なれば、車はところせし」〈堤中納言・はいずみ〉
[訳]「すぐ近くの所なので、牛車(ぎっしゃ)ではおおげさだ」
[5]やっかいだ。扱いにくい。
[例]「雨降り出(い)でてところせくもあるに」〈源氏・末摘花〉
[訳]「雨が降り出してやっかいであるが」
<参考>派生語に「ところせがる」「ところせきなし」などがある。また「せし」は単独では用いられず「ところせし」の形で用いられる。

![]() | 東京書籍 「全訳古語辞典」 JLogosID : 5088392 |