那賀国
【なかのくに】

(古代)大化改新以前の国名。仲国（古事記・国造本紀）・那珂国（風土記）とも見える。県中央部の那珂川流域一帯および県南東部の霞ケ浦東岸から太平洋岸にかけての地域。国名は，常陸国の中央に位置することに由来（新編常陸など）。「風土記」に「古は，相摸の国足柄の岳坂より東の諸の県は，惣べて我姫の国と称ひき。是の当時，常陸と言はず。唯，新治・筑波・茨城・那賀・久慈・多珂の国と称ひ，各，造・別を遣はして撿挍めしめき」と見える。同書行方郡条に「建借間命〈即ち，此は那賀の国造が初祖なり〉」，「国造本紀」に「仲国造　志賀高穴穂朝御世，伊予国造同祖建借馬命定賜国造」と見え，「古事記」には神八井耳命について「常道仲国造……等之祖也」と見える。那賀国造の初祖は，建借間（馬）命で，神武天皇の子神八井耳命の子孫とされている。建借間命の出自については，もと火国造家から分かれた意富臣の一族で，同族が肥の国を中心に根拠をもち，やがて大和に入り，さらに朝廷の命を奉じて東国に勢力を扶植したという説が有力。建借間命の「建」は武勇をあらわした美称で，「借間」は「鹿島」と通じ，鹿島神宮は建借間命あるいは彼と関係の深い前後の人によって創建されたという説もある（姓氏家系大辞典）。水戸市の愛宕山古墳は建借間命の墳墓と伝えられる。「風土記」行方郡条に白雉４年当時の那賀国造として「壬生直夫子」が見え，夫子は，建借間命の後裔で，那賀国内に設定された壬生部の伴造を兼ねたので壬生直を称するようになったと推定される（勝田市史）。「風土記」香島郡条に，大化５年に下総国海上の国造の部内より１里と那賀国造の部内寒田より北の５里を割いて香島郡を置いたと見え，同書行方郡条に，白雉４年に茨城国造壬生連麿・那珂国造壬生直夫子らが茨城の地８里と那珂の地７里をあわせて行方郡としたとあり，那賀国の領域は，のちの那賀郡の地ばかりでなく，香島・行方両郡の一部をも含む広大なものであった。北は現在の緒川村から御前山・桂村，東は東海村からひたちなか市，西は内原町，南は北浦西岸地帯から神栖(かみす)町北部までを含む領域であった。那賀郡の郡領は，奈良期には宇治部を称する氏族が世襲していたと考えられる（水戸市史）。宇治部氏と那賀国造家の関係については，那賀国造壬生直はそのまま那賀郡領となり，のち宇治部直と改称したとする説と，壬生直と宇治部直とは別の氏で，国造の系統をひく壬生直は那賀郡では没落して宇治部直と交替したとする説がある（水戸市史）。

KADOKAWA 「角川日本地名大辞典」 JLogosID : 7038718