塩尻峠
【しおじりとうげ】

塩尻市柿沢と岡谷市今井との境にある峠。塩嶺(えんれい)ともいう。標高999m。北方700mほどの所に,中山道が通っていた旧峠(1,055m)がある。太平洋側の表塩と日本海側の裏塩との接触点であったことから,塩尻の名がついたという。太平洋側と日本海側との分水界をなし,塩尻側は降水量が少ないが,諏訪側では多い。また,冬季に冷たい季節風が吹く諏訪地方では,「建てぐるみ」の民家がよく見うけられる。現在の峠を通る新道が開かれたのは明治22年。明治15年に長野県が立てた七道開削事業の第7路線にあたる。旧道の3倍の距離をもつが,急勾配がなくなり,馬車が通行できるようになった。第2次大戦後は国道20号として,大幅に改修が進められたが,急カーブが多く,通行に危険もある峠道であることに変わりはない。峠に立つと,諏訪湖を前景に八ケ岳連峰から霧ケ峰,また晴れた日には富士山の姿を望むこともできる。一面に氷の張りつめた諏訪湖のかなたに富士のそびえる安藤広重の「木曽街道塩尻嶺諏訪ノ湖水眺望」は有名。峠の傍らに,旧長野県庁舎本館の一部を移築した塩嶺記念館がある。明治13年,南信を巡幸中の明治天皇が旧塩尻峠で休憩したため,旧峠から新峠のあたりを塩嶺御野立(おのだち)公園と呼ぶ。一帯はレンゲツツジの群落やシラカバの林が見事で,野鳥の名所でもある。昭和29年,岡谷市の小平万栄の提唱によって始められた塩嶺小鳥バスは,現在まで5~6月の毎日曜日の早朝に運行され,市民ぐるみの探鳥会として知られる。同61年,東麓に中央自動車道の岡谷ジャンクションが完成した。

![]() | KADOKAWA 「角川日本地名大辞典」 JLogosID : 7101015 |