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賢い・畏い
【かしこい】


kasikoi

【古代】1)利(り)口(こう)だ、頭がいい。2)ぬけめがない。3)如(じょ)才(さい)ない。古語と現代語では意味内容に落差が大。[中国語]聡明、乖。clever,, shrewd,, tactful.

【語源解説】
現在、宮中に天照大神の御(み)霊(たま)代(しろ)の神鏡を奉安するところを〈賢(かしこ)所(どころ){かしこどころ@賢(かしこ)所(どころ)}(ケンショとも)〉というように、カシコは本来神あるいは超人間的存在に対して抱く恐レ、畏(イ)敬(ケイ)の気持をいう。この気持が、身ノ固クナル状態としてとらえ、イカシ、イカメシ(厳)などから、語頭のイが脱落して、カシ→カシコ→カシコシなどの形をとった。漢字では〈賢、畏〉があてられる。今も祝(のり)詞(と)などにいう〈かしこみかしこみ申(まお)す〉、『日本書紀』に〈畏(カシコ)ミテ仕へ奉ラム〉とみえる。カシコムは動詞形で同根語。さらに転じて、そのような能力をもつ生き物、人間にもいい、思慮ぶかく、日常的に頭の働きがすぐれている点をカシコイ(少年)などと形容するようになった。敬意を示す例は、女性が手紙の末尾に、〈敬具〉の代りに用いる〈かしこ{かしこ}(古くはあな、かしこ)〉にも残存。また、偉人や権力者の前にでると、身がちぢむ思いでいうカシコマル{カシコマル}も同じ意味内容、また、〈承知した〉の意でいうカシコマリマシタにも用い、いずれも同根語。

【用例文】
○アヤニ加(カ)志(シ)古(コ)志(シ)(記)○久かたの天つ御(み)門(かど)を懼(カシコク)も定め賜(たま)ひて/かけまくもあやに可(カ)斯(シ)故(コ)斯(シ)/謂ふ言(こと)の恐(カシコキ)国ぞ/天(すめ)皇(ろき)の御命(みこと)畏(カシコ)ミ(万)○悸、敬 mini{豆(ツ)々(ツ)志(シ)牟(ム)又加(カ)志(シ)古(コ)牟(ム)、加(カ)志(シ)古(コ)万(マ)留(ル)}(新撰字鏡)○むかしかしこき天竺のひじり/のたまはん事かしこしともおもはず(竹取)○よべ〔昨夜〕も御遊びにかしこく求め奉らせ給ひて/かしこき御身のほどと聞ゆる/名を得たる舞の師のをのこどもげにいとかしこけれど/御手〔手習い〕などのわざとかしこうこそものし給ひけれ/風吹かずかしこき日〔上天気の日〕なり(源氏)○あのをのここちよれと召しければかしこまりて/と仰せられければかしこくおそろしと思ひけれど(更級)○黠 mini{カシコシ}/畏、恐、威、悚 mini{カシコマル}(名義抄)○かしこくこよひまいりけり/かゝるかしこき御ふみをもいまだみ侍(はべ)らで(とはず)○不知ヌ世界ナレドモ陸(クムガ)ニ寄リタルヲ賢(かしこ)キコト〔幸運なこと〕ニテ是(ゼ)非(ヒ)ヲ不云ズ(今昔)○をやいとかしこきことなりとよろこびて〔子を〕やりつ(古本説)○かやうの賢(かしこ)きはからひをばし給はで、よしなき謀反おこいて/かしこうぞ〔かしこい処置よ〕、爰(こゝ)にてあやまち仕(つかまつ)るらむに………誠(まこと)に情(なさけ)ふかかりけり/かしこ顔〔いかにもかしこそうな様、実はかしこくないこと〕(平家)○みかどの御位はいともかしこし/心はなどか賢きより賢きにも移さば移らざらむ(徒然草)○賢(カシコシ)、恵(同)、輝(同)mini{カヽヤク}/畏(カシコマル)(運歩色葉集)○Caxicoi. カシコイ 思慮ぶかく、賢明である/カシコマル うずくまりしゃがむ/カシコマッタ ある人に対してその人のいうことに同意しそのいうとおりにしようという意味を謙遜して示す/カシコダテ=思慮ぶかいように、あるいは賢明であるようにみせかけること(日葡辞書)○去(サレ)ども口はかしこくて/さるかしこき人、数(す)寄(き)に行路地へ入/児の内にかしこきが起あはせ/かしこき童(わらは)(醒睡笑)○〔遊女吉野は〕やさしくかしこくいかなる人の{おんなさと)(よめ)子(ご)にもはづかしからず/あしき事は身に覚て……かしこ{しろはち)(がほ)〔かしこぶるさま〕するものなり(西鶴)○いともかしこし、人輪〔倫〕の中に、此心〔男女の愛欲〕そなへぬはなくて(好色訓蒙図彙)○かしこき男の心もいつしかまよひて世のそしりをうけるためし古(いにしへ)今(いま)にたぐひおゝし(好色袖鑑)○賢(カシコシ)/踞坐(カシコマル)、畏(同)/辨(カシコシ){レ}口(クチ)、口捷(同)(書言字考)○賢(かしこ)し、畏(かしこまる)(早節用集)○駅(えき)停(てい)のあるじ、かしこくさがし得てあたへければ、得てかへりぬ(蕪村)○かしこき御代に武〔不〕器用な民はなし(川柳)○今の世の中はむかしの事を踏台にして……人は賢(かしこ)くなったに違(ちげへ)ねへ(浮世床)○カシコイ 可畏/カシコマル 畏 カシコイヒト=a wise man. 同義語 リコウ、ハツメイ、ウヤマウベシ、オソルベシ(ヘボン)○幼(えう)女(によ)に似(に)合(あは)ない、お槌嬢の怜悧(かしこ)さ(坪内逍遥)○而も商法の道に怜悧(かしこ)く(巌谷小波)
【補説】
近代語となって、カシコイとカシコマルは別語として、意識され用いられるようになる。ただし、文章語としては、古代のカシコシの意でなお用いられた。なお、〈利(リ)口(コウ){りこう@利(リ)口(コウ)}〉も、文字どおり古代より口達者の意で用いていた。『下学集』(1444成)に、〈滑(コツ)稽(ケイ)mini{利口ノ義也}〉とあり、巧みなおしゃべり、〈口〉にかかわる語。しかし16世紀ごろから、口賢い、頭の回転がはやいという点で、現代のリコウの意に転じていく。〈利(リ)発(ハツ)、利(リ)根(コン)、利口(コウ)、利鈍(ドン)〉(易節用集)などが一般的になり、同時代に転義がむしろ中心的となる。




東京書籍
「語源海」
JLogosID : 8537367