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太公望
【たいこうぼう】


taik^{o}b^{o}

【江戸時代】釣り人をよぶ異称。子どもを〈豆太公望{まめたいこうほう@豆太公望}〉とよぶ。[中国語]釣魚人。angler.

【語源解説】
太公が待望ノ人物の意、譬喩的表現。古代中国の兵法家、呂(ロ)尚(ショウ)に関する故事による(『史記』にみえる)。すなわち呂尚は周の文王、武王を助け、周を安定させた人物で文王(西伯)の太公(祖父)が待望していた人物なので太公望とよばれた。この呂尚がたまたま渭(イ)水(スイ)という川で釣りをしていたとき、文王の目にとまり、両人は論じあったが、文王は呂尚をすっかり気に入り、この人物こそ〈吾ガ太公、子〔あなた〕ヲ望ムコト久シ矣〉(史記)と連れ帰った。呂尚は『六(リク)韜(トウ)』という兵法書の著者としてしられる。これは俗に〈虎ノ巻{とらのまき@とらのまき(虎の(ノ)巻)}〉ともよばれた秘書。

【用例文】
○太(タイ)公(コウ)望(バウ)が周文ニ遇ヘル渭(ヰ)浜(ヒン)ノ波ヲ面(オモテ)ニ畳(タヽミ)(和漢朗詠集)○是(コレ)〔ここを攻めることは〕太公が兵書ニ出デ、子(シ)房(バウ)〔兵法家〕ガ心底ニ秘セシ所ニテ候ハズヤ(太平記)○蓑虫々々、漁父が一糸をたづさへたるに同じ(中略)太公すら文王を釣(つる)の謗(そしり)あり(風俗文選)○釣(つり)竿(ざほ)を買ふ親仁は太(たい)公(こう)望(ばう)が顔色を移小{シ}/木場〔深川の木場〕の岡釣には太(たい)公(こう)望(ぼう)も歩(あゆみ)をはこび(平賀源内)○太公はやうやう蟹を一つ釣(川柳)○今日あたり沖(おき)釣(づ)りでも無(な)き物(もの)をと太(たい)公(こう)望(ぼう)がはり合(あ)ひなき人をつくづくと恨み(樋口一葉)○一行の舟は静かに太公望の前を通り越す(漱石)
【補説】
格言、〈覆水盆ニ返ラズ{ふくすいぼんにかえらず@覆水盆ニ返ラズ}〉―{2}本来は〈覆水定メテ収(オサ)メ難シ〉(句草紙・譬喩尽)―{2}も、夫(おっと)である太公望が、読書ばかりして出世しないのに嫌気がさしたその妻が離縁して夫のもとを去ったものの、夫が斉に封ぜられるほどの出世をしたので復縁をせまった。しかし太公望は盆の水をひっくり返して、もし水が元にもどったら求めに応じようといった故事による。『後漢書mini{〈光武紀〉IG}』に、〈太公一壺ヲ取リ地ニ傾ケテ、妻ヲシテ之ヲ収メシム、乃チ之ニ語(ツ)ゲテ曰ク、能ク離(ハナ)レ更ニ合フコト覆水定メテ収メ難キヲ言フガ若(ゴト)シ〉とみえる。しかし現在は復縁に関係するのみの格言でなく、広く〈後悔先ニタタズ{こうかいさきにたたず@後悔先ニタタズ}〉という意味で用いる。




東京書籍
「語源海」
JLogosID : 8537735