100辞書・辞典一括検索

JLogos

29

浮騰り
【とばっちり】


tobattiri

【江戸時代】巻き添え。そばにいて、不当なわざわい、迷惑をうけること。[中国語]連累。by-blow, get dragged, splash.

【語源解説】
〈とばしり{とばしり}〉が促音化して、トバッシリ→トバッチリと変化。さらにトバシリは逆(さか)のぼって、〈ほとばしり{ほとばしり}〉が本源。鎌倉期には、ホドハシル、その略、トバシルと両語形がみえる(類聚名義抄)。語頭の弱い音〈ホ〉は落ち、濁音が移行して、ホドハシル→ホトバシル→トバシルが成立。水でなく木片の〈飛び散る〉の意でも用いているが、室町期のものには、〈その迸(とばしり)が人の衣にそゝいである〉のように水の飛び散ることでみえ、『日葡辞書』には〈液体状の物の飛沫〉とある。また、〈チリブリ〉がトバシリと同じ意といい、下層の人びとの言い方とみえる。したがってトバシリのシリ→チリの語形変化もおきていたこと、トバチリの語形も想定できる。17世紀にはいっては、現代語と同じ意味用法と、類似の語形に近づいた。もとよりトバッチリと訛った語形は江戸語。

【用例文】
○雷(イカヅチ)ノ震(ウゴ)カス柱ヤブレテ迸(トバシ)リ(今昔)○迸、跳、躍mini{ホドハシル}/迸mini{トバシル}(名義抄)○Tobaxiri. トバシリ 何か液体の物の飛沫、トバシリガカヽル/チリブリヲカクルmini{〈下層階級のことば〉}上層の人びとはトバシリという(日葡辞書)○とばしりが諷(うたひ)の師匠までかゝり(川柳)○とんだ所へ浮騰(とばっちり)〔かかりあい〕がかゝるもんだぜ(浮世風呂)○そのとば尻(しり)をおれにおしつけはごめんだよ/そのとばッちりぢやァ是は請(う)けたくねえ(人情本)○トバシリ 沫 水の飛沫。トバシリガカカル/ミヅガトバシル〔迸をあてる〕(ヘボン)○仇(うつ)擲(ちやり)ぱなしの波及失(とばつちり)(西洋膝)○飛んだ余(とば)滴(しり)ですこと(巌谷小波)○其余(とば)波(しり)いつもいつも母(おふ)親(くろ)に及びて(坪内逍遥)○とばちり とばしりノ転。傍ニヰテ遇(ア)フ、マキゾヘノ禍ヒ。とばちりニ逢フ(日本大辞書)
【補説】
トバシリもトバッチリ同様に用いられているが、やがてトバッチリが主となる。




東京書籍
「語源海」
JLogosID : 8537878