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▼神業! イカそうめんの包丁さばき


評判の高さを耳にして、函館朝市近くの味処「嘉兵衛」ののれんをくぐったことがある。「うちでは漁船の生簀からヤリイカを生かしたまま、専用活魚車で店まで運んでいるよ。それを店内の生簀に泳がしておいて、その日のうちにすくい出して料理にかかるんだ」と料理長の木村光雄さん。これ以上の鮮度はのぞむべくもないだろう。
料理法に度肝を抜かれた。ヤリイカの袖口から足を引き抜いてから皮をむく。ここまではなんということもない。次にヤリイカの身をぺたっとまな板におき、まな板に平行に包丁を進めていき、みごと薄い2枚におろしたのだ。初夏のスルメイカの身は薄く、これは神業に近い。こちらが兜を脱いだところに、追い打ちをかけるように、「身が厚くなる真夏には3枚におろすよ」というのだから開いた口がふさがらない。
それこそ厚めのトレーシングペーパー状の身を、包丁の先で縦に長く細く切る。そうめんよりもそうめんらしい一品が出来上がった。おろしショウガをつゆに溶いて、そうめんの作法ですすりこむ。コリコリした感触がなんとも愉快であり、つい頬がゆるんでしまう。のどごしも華やかだし、あと味も極上である。つい数分前まで泳ぎ戯れていたのだから、旨味は足りないかもしれないが、それを補ってあまりある心地よい食感があった。ヤリイカのおいしさを楽しみたい人に、5月の函館旅行をすすめたい。




東京書籍
「旬のうまい魚を知る本」
JLogosID : 14070399